パタゴニア:環境保護への行動:環境エッセイ - 過去の妄想か、未来の創造か By 飯田 哲也
いま私たち人類は、たいへんな3つの危機の前に立たされている。
急速に崩壊するグローバルな金融危機の影響で、国内外の実体経済が急激に冷え込み、いま私たちは100年に一度と言われる世界恐慌の淵に立たされている。どん欲に無限の成長を追い求めてきた市場原理主義や金融資本主義の破綻したことは、誰の目にも明らかだが、今後は世界恐慌を回避しながら環境保全や社会的な格差是正を重視した人間中心の経済へと、根底から転換しなければならない。
そして環境とエネルギーの危機も深刻だ。無限の成長を追い求めるために石油や石炭を浴びるように大量消費してきた結果、地球は温暖化の危機に直面している。異常気象の多発や極地氷の急減、海面上昇など、今後数千年におよんで見られる気候の変化がすでに� �じつつあり、数年単位で地球全体の温室効果ガス(とくに二酸化炭素)を削減に向かわせなければ「取り返しのつかない地点(ポイント・オブ・ノーリターン)」を過ぎることが心配されている。またエネルギー危機では世界全体で見た石油生産がピークを迎え、急速に崩落する時期が近づきつつある。破局的な地球最後の石油危機である。
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そうした背景のなか、200万人を越える大観衆を前にバラク・オバマ米大統領が就任した。70年前にルーズベルト大統領が指揮したニューディール政策に重ねて、「グリーン・ニューディール」を求める声がアメリカだけでなく世界中で沸き上がっている。グリーン・ニューディールとは低炭素・低エネルギー社会へのインフラ投資をいっそう加速することで、新しくかつ健全な成長セクターを作り、何千万人もの「グリーン雇用」を生み出すことで先に挙げた3つの危機を乗り切る構想である。電気自動車や低エネルギー住宅なども重要ではあるが、何と言ってもその中心は太陽光発電や風力発電などを基盤とする、「自然エネルギー経済」への転換である。自然 エネルギーへの投融資は5年以上にわたって毎年60%以上の拡大をつづけており、昨年の投資額は世界全体で15兆円にのぼる。10年後には自動車産業に匹敵する規模に成長しうる最大の成長株である。たとえば太陽エネルギーだけを取っても人類が利用しているエネルギーの1万倍という無尽蔵の量があるため、資源はほぼ永続的に再生される。さらにクリーンで枯渇しないため、温暖化とエネルギーの危機に対する決め手でもある。
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オバマ大統領もその期待に応えたメッセージや体制、施策を次々と発表している。選挙キャンペーン中から、2025年までにアメリカの電力の25%を自然エネルギーに転換することを訴え(現状は7%)、当面は2012年までに現状の3%増となる10%を目指すことを表明している。実際アメリカの風力発電は昨年850万キロワットも増え、11年ぶりにドイツを抜いて世界一の座を奪還している。アメリカだけではない。欧州連合(EU)は2008年12月に自然エネルギー指令を採択し、2020年までにエネルギー全体の20%以上、電力では30%以上を自然エネルギーに転換することを各国に義務づけている。なかでも自然エネルギーでリードするドイツは、2030年までに電力の45 %を自然エネルギーに転換することを国家目標に据えている。
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つまり、自然エネルギーは私たち人類が直面する3つの危機を克服するための希望であるばかりか、グローバル社会から見ればすでに大きな転換が始まっている現実でもある。その希望の現実にひとり背を向け、過去の妄想に引きずられて私たちの未来を破壊しようとしている国がある。日本だ。集中豪雨のようにモノ中心の輸出産業に依存していた経済は、つるべ落としのように勢いをなくしつつあり、見渡せば無残な空洞化が進んできた地域は疲れ果てている。環境エネルギー分野を見ると、1990年以降石炭火力発電を3倍にも増やして国策として強引に推し進めてきた原子力も、地震や不祥事や老朽化のために行きづまり、廃炉も始まって� ��る。国はそうした無残な現実を見ようともせず、ひたすら原子力と石炭を偏重した20世紀の遺物のようなエネルギー政策に凝り固まったままだ。その結果、地球温暖化防止の最初のステップであり、私たちの愛すべき古都の名を冠した京都議定書のささやかな目標すら達成が絶望的になっている。エネルギー自給率もわずかに4%と、世界で最も脆弱なエネルギー構造に留まっている。
そして世界から孤立し、隔離され、異質な進化を遂げつつある日本の環境エネルギー政策の象徴が、六ヶ所再処理工場なのである。仮に核燃料サイクルの負の部分をすべて無視したとしても、日本が必要とする環境エネルギー政策にとって六ヶ所再処理工場は何の意味も持たないだけでなく、壮大な時間と人と金の無駄だ。私たちが直面する環境エネルギー問題、そして温暖化の危機とエネルギー危機に対しては、一般の原子力発電ですらほとんど役に立たない。新設に長い時間を要する一方、老朽化している日本の原子力発電所は危機への解決になるどころか現状を維持することも不可能なのだから、今後は急速に減少していくことは避けられない。ましてや核燃料サイクルは膨大な費用を� ��やすだけで、有益なエネルギーは何も生み出さない。それどころか放射能汚染から核拡散のリスクまで、とてつもない負を生み出す。それが核燃料サイクルのもっとも本質的な問題点なのだ。
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